そのチャイムが鳴ったとき、山本雪乃は夢の中にいた。


 世間では長いゴールデンウィークが終わり、梅雨の気配に春も終わりを告げそうな5月末のことだった。

 山本雪乃は都内の津久井大学に通う3年生。先月20歳の誕生日をむかえたばかり。

 教師を夢見て、岐阜県から育ての両親の反対をおしきってはるばる東京にやってきた。

 本当の母親は知らないし、父親とは事情があり一緒に暮らしたことはなかった。そんな雪乃を愛情こめて育ててくれた今の両親には感謝しているが、どうしてもひとり暮らしがしたかったのだ。


 東京の街にはいまだに慣れないことも多く、独特のイントネーションの岐阜弁はなかなか直らなかったが、楽しくやってきた。

 3年生ともなると授業も少なく、今日は1限目の授業しかないため、一人暮らしのアパートで早めの昼食をとりダラダラしているうちにいつしか、午睡の海に身をゆだねていた。

 
 運命を変えるチャイムは、そのとき鳴ったのだ。