渋谷署を1歩外に出ると、湿気の含んだ空気が雪乃をまとった。

 それでも、それは久しぶりにきちんと外の空気を吸う雪乃には心地の良いものだった。
 大きく深呼吸をする。

 通りにはひっきりなしに車があふれ、待ち行く人は無表情に歩いている。

 自由になれたことを実感してか、また涙があふれてくるのをこらえながら雪乃は吉沢を見た。

「山本さん、今回は大変な目にあわせてしまいました。警察を代表して謝罪します。それから、植園さんが失礼な言い方をしてしまったことも重ねてお詫びします」
吉沢は腰を曲げた。

「いいんです、吉沢さん、本当に大丈夫ですから」
肩に手を触れると、吉沢はようやく顔を上げた。

「何か困ったことがあればいつでもお電話ください。全力でお守りしますから」
その言い方が意味深なのに気づいてか、吉沢は自ら顔を赤らめた。

 雪乃はにっこりと笑うと、
「はい」
とうなずいた。