昼過ぎに7階のフロアに現れたのは、家庭課の刑事だった。植園の先輩にあたる50近い人の良い古谷刑事だ。

 入り口あたりで植園に手招きをしている。

「古谷さん」
すぐさま駆け寄ると、古谷は柔和な顔を崩して笑った。

「お疲れかい?」

「ええ、まぁ。それより、どうしたんですか?」
植園は微笑むと尋ねた。

「聞いてるよ、やっかいなヤマかかえてるんだってな」

「情報早いですね。単純な事件だと思ってたんですが、なかなか解決の糸口が見えません」
素直に植園はうなずいた。


 古谷は黙って植園を見つめると、
「どんな事件でも、糸口はあるさ。そして、その糸口は、こんな中年刑事が与えることもできたりするんだ」
と意味ありげに笑った。