何も言えずに雪乃はただ、その瞳を大きく開いてうなずく。

 悲しそうに笑うと、工藤もうなずいた。

「こうして触れられない距離になって、改めて君の大切さを感じているよ。早く君を抱きしめたい」

「うん」
あふれた涙は頬からこぼれ落ちる。

 工藤は手をしきりから離すと、
「何か言いたいことはないかい?」
と尋ねた。

 時間はあと少ししか残っていなかった。

 雪乃は知らずにため息をこぼすと席についた。涙でむせたのかしばらく咳き込んだ後、ゆっくりと言葉を逃がした。
「悲しいのは、工藤君だけじゃないから。じっと、つまらない毎日を送る中で、何が一番大切なのかは、しょうがないし、うまく言えないけれど、恋しい気持ちが教えてくれる」

 工藤は、雪乃を見つめたまましばらくその意味を考えているようだったが、
「具体的にはいつも言ってくれないね。君の口から、愛しているって聞けたら幸せなんだけどなぁ」
とおどけて見せた。