午後になっても、松下野々香の足取りはつかめなかった。

 大阪ではATMを使い現金をクレジットカードで引き出されているが、逃亡用なのかサングラスとマスクをしている荒い画像しか警察には届かなかった。

 時計が17時を指す頃、植園は留置課に電話を入れ、山本雪乃を連れてくるよう指示を出した。

「今日は取り調べの予定が入っていませんが・・・?」
おそるおそる尋ねる吉沢を無言でにらんだだけで、植園は今日何本目かの煙草に火をつけた。


 7階に連れられてきた山本雪乃は、以前よりもやせて見えた。あまり眠れないのだろう、憔悴しきった顔で吉沢に頭を下げると職員に連れられて取り調べ室へ消えた。

「あなたも同席して」
そう言うと、植園はツカツカと歩いていった。

「わかりましたよ」
小さな声でつぶやくと、吉沢もそれに続く。

 職員の差し出した『受け渡しの証書』にサインをすると、彼は足早に去っていった。想定外の連行に、仕事を中断してしまったのかもしれない。