「女一人に何ができる。
こっちはナイフを持ってたんだ、ヘタに動くと怪我するぞ」

「残念ながら、あんたみたいなヒョロヒョロした男に負けるつもりないわ」

ニッと笑いながら藍衣が言うと、少年の虚ろな瞳は、とたんに怒りに満ちたものへと変わった。

「なんだと…!」

“ヒョロヒョロ”
この言葉に、少年はキレたのだ。

自分が男らしくないことくらいわかってる。
だが、それを改めて他人に指摘されると無性に腹が立った。

「俺が川瀬麻里乃を殺れば、ミカさんは俺と一緒になってくれるんだ…!邪魔するな!」

叫びながら突っ込んできた少年。
その動きが藍衣には止まって見える。

ひょいっと軽く交わして後ろに回り込み、首の後ろをトンと叩けばすぐに決着はついた。

「うっ…!」
「おっと」

少年は気絶し、その場に倒れた。その隙にナイフを預かる藍衣。

「さてと、あたしも早よ店に行かな……」

藍衣の動きが停止した。

だが、しかし。
ここで問題が起きた。

「お、重い……」

さすがの藍衣も、意識のない男の体を担ぎあげることはできない。

「こいつ…どーやって店に連れてこう…」

「あれ、藍衣!」

名前を呼ばれ振り返ると、そこにいたのはミカを連れた健一だった。