「おいおい、そんなこと言いつつ、お前も熱演してんじゃねーか。犯人の恋人」
そう言って奥からのっそりやってきた少年──悠季(ユウキ)。
緑色の瞳が綺麗な彼は、藍衣の肩に手をのせた。
「なぁ、みつ子♪」
「みつ子やないわぁあ!!ダサいねん、その名前!あんたのネーミングセンスと脚本センス、どないなっとんねん!!」
拳を振り上げる藍衣を、軽々とかわし、悠季はニッと笑った。
「そもそもおかしいねん!夜の10時に放送するサスペンスドラマの1シーンのアイデアを出してくれって依頼で、何であんな結果になんねん!?」
今日放送されたドラマは、一週間前にそのドラマの脚本をつとめる男性からの依頼で作ったものである。
悠季を監督として撮影し、出来上がったシーンを依頼人に見てもらうと、なんと彼は意外にもそれを気に入ってしまった。
そして、今日のドラマのラストシーンにそのまま起用されたのである。
「いいじゃねえか。
依頼人も満足してたんだし」
「それはそーやけど…。あんなラストシーンになった連続サスペンスドラマ…絶対すぐに放送打ち切られるで!?」
必死に言う藍衣に、悠季はさらりと答えた。
「そんなの知らねーよ。依頼は、アイデアを出すこと。そのアイデアを使おうが使わまいが、依頼人の勝手じゃん。
そのあとどーなったとしても俺らの責任じゃねーし」
悠季はそれだけ言うと、店を出て行った。