* * *
麻里乃が家にいる間も、藍衣はずっと彼女の家の前にいた。
怪しい者は今のところ、見てはいない。
辺りは暗くなってきていて、お腹も減ってきた。
「あー…板チョコ100枚食べたいなー」
ため息をつきながらそうもらした直後、藍衣の目にマンションの前でうろうろしている男が飛び込んできた。
「誰や、あいつ…?」
ポケットからデジカメを取り出すと、悠季に言われた通り数枚写真を撮った。
「ホントはとっ捕まえて事情聴取したいところやけど…悠季の言う通りにせなアカンけんな…」
めんどくさい事や回りくどい事が嫌いな藍衣は、少し不満げな様子で張り込みを続けた。
藍衣がずっと家の前にいることなど知らない麻里乃。
ストーカーに怯えつつも、普段通りの生活を続けていた。
数学の教科書を手にし、宿題を始めようとした時、彼女の携帯が鳴った。
「もしもし」
〈あ、麻里乃ー?あたし、ミカだよー〉
「どうしたの?」
電話の相手は親友のミカ。
麻里乃がストーカーに悩まされている事を唯一知っている人間だ。
〈最近どうなの?大丈夫?〉
「うん、大丈夫!今日は何も起きてないよ」
〈そっか、何かあったら言ってねー〉
「あ、そういえば私ね、『LOVE&HAPPINESS』って所に、犯人捕まえてくれるように頼んだんだ」