「もしもし」
彼女からの電話に、彼は迷わず出た。
その表情はどこか嬉しそうに見えるからつらい。
「……あとで、こっちからメールするね。バイバイ!」
「え?あ、おい…!」
あたしは、走って公園をあとにした。
あの場にいたくなかった。
彼女と楽しそうに通話する彼を見たくなかった。
彼女から電話が来た時、一瞬だけだけど、彼は今まであたしが見たことない優しい笑顔を浮かべたの。
あたしじゃ、あの笑顔にさせることはできない。
悔しい……。
家に着いた途端、我慢していた涙が溢れ出た。
一年も会ってなかったのに……あたし、まだこんなに好きだったんだ……。
携帯の電話帳を開く。
彼のアドレスがきちんと登録されてある。
こっちから絶対メールはしない。
向こうはまだあたしのアドレスを知らないんだ。
あたしがメールしない限り、連絡しあうことはない。
彼との接触は、断ち切るべきなんだ。
だけど……彼のアドレスを削除することはできなかった──。
fin.