ありがとう……。




「あぁ──!!」



少年がヴァイオリンを弾く手を止め、あたしを指差した。


「やっと笑った!笑ってくれた!」


いつのまにか、頬がゆるんでいたようだ。
急に恥ずかしくなり、あたしは両手で顔を覆う。


「あ、隠さないでよ。もっと見たい、君の笑顔!」


「恥ずかしい事言わないで!」


少年は柔らかく笑った。


「君、初めて俺がここでヴァイオリン弾いた時、泣いたんだ」


え?うそ、あたし泣いてたっけ。自分じゃ全然気付かなかった。


「俺の演奏は人を笑顔にさせるものであってほしい。だから、まず君を笑わせることをひそかに目標にしてたんだ!」


何だそりゃ。見知らぬあたしを勝手に目標に使って。


「あなたの演奏で笑ったんじゃなくて、あなたの言葉で笑ったの」


「何!? じゃあ、今度こそ君をヴァイオリンの演奏だけで笑顔にさせてやる!」


「覚悟しとけ!」とかベタな言葉を叫ぶヴァイオリン少年に、あたしは言ってやった。



「絶対笑ってあげないよ。
ずっとあなたの演奏を聴いていたいから」




fin.