次の日の午後1時30分。
昨日言った通り、少年はやってきた。


思えば昨日、彼と話したのはあれが初めてだった。
何日も彼の演奏を聴いていたせいか、なんだか昔から知り合いだったような気がしてしまう。


あたしたちはまだお互いの名前さえも知らないのだと、今更ながら気付いた。


準備が終わったらしく、少年がヴァイオリンを弾き始めた。
一瞬にして、あたしは彼の演奏に引き込まれる。


昨日とはうってかわって、楽しく元気が出るような曲。多分、こういうのを、なんとか“長調”っていうんだと思う。


いつもはそのまま目を閉じて聴き入るけど、今日は少年の姿を眺めながら聴いた。


一生懸命に弾く姿は、いくら下手な演奏でも拍手をしたくなるような気にさせる。
まあ、実際上手いのだけど。


とにかく、体全部を使って弾いていると言っても過言ではない少年を見て、あたしは心に込み上げる熱いものを感じた。