俺は、彼女の隣で頭を下げた。
「すいません、何も知らないのにあんなこと言って…」
「いえ、そんな……。顔を上げてください」
彼女は慌てて俺に言うけど、そういうわけにはいかない。
「私、嬉しかったです。私の髪をそんな風におっしゃってくださって」
「いや、そんな…」
俺はただ、あなたの髪が本当に綺麗だから…
だから、純粋に“切ってしまうなんてもったいない”と思っただけだ。
「あの、お願いがあります」
「え?」
彼女は凛とした顔で言った。
「全部短く切ってください」
俺はもう何も言わない。
彼女が決めたことなんだ。
深呼吸して“かしこまりました”を言おうとした時、彼女から一枚のメモを渡された。
「彼のために伸ばしていた髪とはおさらばして、これからはあなたのために、この髪を伸ばします。だから…
今度…髪にいい、正しいシャンプーの仕方教えてください」
にっこり笑う彼女。
俺は、電話番号とメールアドレスが記されたメモを、強く握り締めて頷いた。
fin.