そのエサは見事に功を奏し、嶋田さんのまわりには、派手な尾びれをなびかせた、たくさんの金魚たち。
鼻にかかった、着飾った声が、集まって。嶋田さんを、悲劇のヒロインのように、仕立て上げている。
授業がはじまるまで、まだ時間があった。
おとなしく席にすわっていようと思ったけれど、無理だった。
「つーか田岡、女の子殴るとか、サイッテー」
「アイツも、ひかれちゃえばいいのに」
ガタッと椅子を押しのけて、立ち上がってしまった。
わたしに注目が集まって、あわててソソクサと、廊下に出る。
息があらい。心臓が、ドクドクと波打つ。
ばかじゃ、ないの。
嶋田さんの、アイツらの世界では、嶋田さんがかよわい姫か女王で、田岡は、ものすごい悪役なんだ。菜落ミノリは、踏み潰してもいい虫かなにかなんだ。
ばかじゃない。狂ってる。わたしでも、もうすこしマトモな脚本、書けるよ。
落ち着けるために、廊下を歩く。
けれど、せいぜい四十メートルほどで、行き止まりだ。
向きを変えて階段を昇って、昇って、たどり着くのは、屋上。そこで、おわり。
空なんて、とうてい目指せない。