「そうかぁ?なんだよ、いきなり」

「ううん、ふと思っただけ」

「ふうん?」


田岡の足元に、パタン、パタンと上靴が降る。

油性マジックの文字。片方に、田岡。もう片方に、広大。

そういえば、アキも、明っていう漢字を書くしなぁ。

明るい、アキ。広々した、広大。

人って、名前のとおり育つのかな、なんて、考えてみる。


三橋八子。

取り出した、自分のうわぐつに書かれた名前を見て、ため息をついた。


八子のハチは、「スエヒロガリだから」って理由で、お母さんがつけてくれたものだ。

スエヒロガリ。先に進むにつ れて、栄えていくこと。・・・それ、本当に?



広がりもせず、狭まりもしない廊下を、田岡と歩いた。

朝早いからか、廊下には、生徒はほとんど見当たらなくて。

めずらしい組み合わせのわたしたちに、チラチラ意味をふくんだ視線を送ってくるひとはいない。

だから、わたしは、心穏やかに、人少ない自分の教室に入り、席につき、真っ白な宿題と向き合う。


その予定だった。この瞬間までは。