「カサ、持って行きなさいよ」


花火から何時間後かの、朝。出かけ先、お母さんに言われた。

ええ、こんなに晴れてるのに。そんなわたしの心を読んだかのように、お母さんは続ける。


「天気予報では、午後から崩れるって言ってたの。いいから持って行きなさい!っていうか八子、家出るのずいぶん早いのね」

「うん、まあね」


それは、学校で宿題をしようと思っているからです。

心のうちで答える。

塾がある日は、帰ってすぐ宿題に取りかからないと終わらない。

なのに、昨晩は突然の花火計画のおかげで、宿題の存在すら忘れて、眠ってしまったのだ。

お母さんに言ったら、またなにか文句 を言われるかもしれないから、理由は伏せておく。

まあ、もし間に合わなくても、最悪、だれかのノートを見せてもらえばいいし。


「カサ!!」

「ハイハイわかったから!あーっ、もう!押しつけないでよ」

「ああ、そうだ。今日の夕飯なにがいい?」


朝ならではの、めまぐるしい会話。

ちょっとだけ頭をめぐらせたけれど、とくに思い当たるものもなかったので、行ってきますのかわりに、やる気のない一言。


「なんでもいー」