さりげなく、女子、を入れた。
ふるえるかと思ったけど、声はふるえなかった。もし。
もし、教室を見渡した田岡が、田岡の目が、一瞬、『だれか』に止まったとしたら。
一瞬でも、その視線に、熱がこもっていたとしたら。
そうしたら、つながる。夜中に落とされた、ジュウエンムイチの、答えに。
なのに、わたしの期待は外れた。
顔を上げた田岡は、一瞬、菜落ミノリのやぶれた教科書を変な顔で見ただけで、その視線はどこにも止まらず、声に変わった。
「あー・・・おれに、社会の教科書めぐんでくれるひとーっ!!三橋、ケチだから貸 してくんねーんだよー」
田岡の明るい声が、教室に響いた。
調子のいい声に、数人の女子がフフッと笑い、男子の一人が、「しゃあねぇなぁ~」と、田岡に教科書を投げてよこした。
田岡の右手が、教科書をナイスキャッチする。
そのさまはあざやかで、おもわず、バスケの応援が口から飛び出てしまいそうだった。運動神経のよさは、こういう ところにも現れる。