「・・・諸事情により、貸し出しはおこなってオリマセン」


黙っていたわたしを不思議に思ったのだろう。田岡に顔をのぞきこまれて、わたしはとっさにそう言った。

早口で 言ったから、宇宙人みたいな発言になってしまった。


「ははっ、なんだよそれ。今日、二組も歴史あったろ?」

「や・・・うん。あったけど、あったからダメっていうか・・・」

「お前も忘れたの?」


座っている上から見下ろされると、もともとデカい田岡は、さらにデカい。

クラスの視線が痛いし、田岡はデカいし、もう一刻もはやく田岡に去ってほしくて、もうヒゲ生やしの罪業を見られてもいいかと、教科書に手をかける。そのとき。


待てよ。と、思った。


これ、チャンスじゃないのか。

ひらめいた。そうだ。ただなんとなく見ているだけじゃなくて、確かめてみればいいんだ。

絶好の機会だった。

内心ドキドキしていたけれど、わたしはできるだけ何気ない声を選び出して、言った。


「ほかに、借りれる女子、いないの?」