なんで、わたし。
田岡につかまれたばかりの右腕を、なんとなく体のうしろに回して、苦々しさがこみ上げる。
そりゃ、塾が一緒だからかもしれないけどさ。
人前で女子に声をかけるのが苦手な男 子もいるけれど、田岡は全く逆だ。そういうのを、気にするタイプではない。
アキは自分の席から、わたしをからかうような視線を送ってきたし、クラスの一部が、すこし・・・っていうか、かなり沸き立った。
その雰囲気に、わたしは気づくけれど、田岡は気づかない。
・・・しかし、困った。
わたしの顔は、完全な苦笑いになっていた。
なぜなら、わたしの歴史の教科書は、ついさっきの授業で、残念なことになっていたからだ。
あんまりにも授業が眠かったので、手でも動かそうと、歴史上の偉人たちに、さまざまな種類のヒゲを書き加えてしまったところだった。
チョビヒゲ。ドジョウヒゲ。ふわっふわの、サンタクロースヒゲ。洞窟の主、みたいな、もじゃもじゃヒゲ。