けれど、心配は杞憂。

みんなそれぞれ、おしゃべりや携帯メールの返信にせいを出していて、わたしの奇行に気づいた人は、いないようだ。


よかった。だれにも、見られていなかったみたいだ。


ホッと、息をつく。そうか。グラウンドで体育の授業をしてるのは、一組だったのか。


・・・だめだ、落ち着け。


床にむかって、深く、ゆっくりと、空気を吐き出す。

田岡、の名前に、こんなにも過剰に反応してしまうなんて。


こんなの、わたしらしくない。自分に言い聞かせて、目線を机に落とす。

机にきざまれた、数種類のキズ。一本だけ伸びていた、親指の爪をけずったあと。ボールペンが出にくくて、グリグリした、こんせき。

そういうのに集中しようとするけれど、でも、だめ。なんでだろう。落ち着けない。


だってもう、種が植え付けられてしまった。

水も肥料も与えていないのに、あっという間に芽を出した種は、ニョッキニョッキとその腕をたくましく伸ばしていく。

このままじゃ、わたしの中身、ツタにのっとられた洋館みたいになってしまうんじゃないか。