菜落ミノリがスリッパで登校してきたときは、さすがにわたしも、あ然としてしまった。
どうしてこんな、古典的なことしか思いつかないんだろう。
かといって、そんなに斬新な方法を持ってこられても困るけれど。
こわばっていたクラスの空気は、いつしかそれが当たり前みたいになって 、ゆるんでいた。
今朝だって、菜落ミノリの机が水でグショグショに濡れていても、みんな見向きもせずに、笑っていた。
慣れって、こわい。みんな、なにかのウイルスに感染してしまったみたい。
こんな教室の空気を、吸っていたら、ビョーキになりそうだ、と思う。ゾウキンも飛んでるし。
思い始めたら、急激に頭が痛くなってきた気がする。ここにいたくない。深緑色になりたくない。ここから出たい。窓のそとの、空気がすいたい。
窓の、そとの。
「田岡ぁ~!!」
ガバッ!と 。
窓のそと。グラウンドから聞こえた声に、大きく顔を上げて、反応してしまった。
沼から長い首を出した恐竜のような、大げさな動きだったから、あわてて、クラスを見回す。