「となりのクラスの女子を、好きになりました。自分とはタイプがぜんぜん違う子で──」


田岡は一組だ。だから、となりのクラスといったら、必然的に、わたしたちの二組に なる。

コクリ、と小さく息をのむ。


このクラスに、いるんだ。

あの、田岡の、すきなひとが。


教室の下に広がるグラウンドから、ワアキャアと盛り上がっている声がする。体育の授業でも、しているのだろうか。

わたしのなかも、一緒だ。

植え付けられた好奇心の種が、むくむくと盛り上がって、芽を出して、その葉を広げ始める。


べつに、アキが言うみたいに、田岡にとくべつ興味があるとか、そういうわけじゃない。

でも、わたし以外はだれも知らない。わたしだけ。わたし、ひとり。田岡すら、わたしが知っていることを知らないんだ。

その状況は、好奇心を発芽させるのには、十分すぎる環境だった。


・・・田岡のすきな女子って、いったいだれなんだろう。


ノートから目線をはがして、教室のなかを見渡す。

うしろの方の席は、たくさんの頭を一望するのに、格好の場所だった。