午後十時すぎ。ラジオが放送される、この時間だけ、わたしは肺の奥からすくい上げるように、呼吸ができる気がする。すうっと。
ふわっと。
かみ合わないのに、無理やりはめこんでいるパズルのピースが、やわらかくなって、境目がなくなって、なじみ始める。そんなかんじ。
「本日のオープニング・リクエスト曲は、山口県中学三年生、 スーチャン3号さんより、『つらいつらい・つらくない』です──」
通常運行。心地よく耳を打つ、お兄サンの声。
一番最初に流れる曲は、リクエストされた、最近の曲のなかから選ばれる。あんまりにもメジャーすぎる曲は、かからない。それが、またいい。
「ああ、これ知ってる!わたし好きなんだよね~!」なんて、みんなが騒ぐような曲から、一歩はなれたような曲が、わたしには合っている。
みんなから、はなれた場所。
目を閉じると、入ってくる情報は、音だけになる。わたし自身が、耳そのものになったみたいに。
なじみがない曲は、お兄サンの声は、わたしをどこへでも連れて行ってくれる。