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「手、色やばいだろ?」


パッと広げられた両手のひらは、炎みたいに、真っ赤だった。

赤は赤でも、皮膚の血のめぐりとはちがう、赤。

下から浮かび上がってくるのではなく、表面にはりつけられたような原色の赤が、数メートル向こうで披露されている。


「まだまだだけど、今から球技大会の応援幕作ろうってなってさ、クラス全員で、絵の具塗って手形押したんだけど、ポスターカラー塗って放置してたら、やばい。ぜんっぜん取れねー!!」

「うっそ、お前、ちゃんと洗ってねーだけだろ!!」

「洗ったって!かなり真剣に水と向き合ったって!!」


お笑いの会場みたいに、ゲラゲラ、ハッハッハ、ヒャッヒャッヒャア、とにぎやかだ。

でも、ここは、お笑い会場じゃなくて、『松尾塾』っていう学習塾。

当然、そんな話ばかりしていれば、松尾先生からお怒りの声が飛ぶ。


「田岡くん!だまってプリントやる!!」


先生に怒鳴られた田岡は、含み笑いではぁい、と言うと、プリントに視線を戻した。