息をはく。わたしは取っ手を引き寄せて、サブバックを、ひざの上にのせる。
そして、中から、一冊のノートを取り出した。
「田岡に、読んでほしいものがあるの」
それは、菜落ミノリのロッカーから持ってきた、大学ノートだった。
差し出すけれど、ぼんやりした顔のまま、田岡はなかなか受け取ろうとしない。
田岡の手を引き、ノートを持たせる。
「読んで」
強引にそう言うと、田岡はゆっくりと、ページをめくりはじめた。
不思議そうな顔が、だんだん真剣になっていく。
わたしは、息をころして、その様子を見つめていた。
とても、長い時間に感じた。
電灯はあるけれど、光はとぼしいから、ちゃんとみえるだろうか、そんなことを心配して。ページをめくる、田岡の指を追った。
文章が書いてある、最後のページまで行き、田岡の手が止まる。
「これ・・・なに?三橋が、書いたの?」
ノートを閉じて、田岡がわたしを見た。
「すごいな――」
「ちがうの」
言葉をさえぎって、首をふる。
「それ、菜落さんが、書いたものなの」