おなじクラスで三カ月間やってきたのに、たった今、自己紹介をうけたかのようだった。

菜落ミノリというひとりのニンゲンに、はじめて触れた気がした。


…はじめまして。

教科書を両手に握りながら、心のなかで話してみる。

はじめまして、三橋八子です。

わたしは、そのあとに、どんな言葉をつづけるだろう。


「……あれ?」


おもわず、口に出ていた。

資料集。国語の便覧。重たいもの数冊のあとに、一冊。

うすい、大学ノートがまじっていた。

表紙には、なんの教科名も書かれていない。

なんだろう。

ロッカーをあけたときよりも、ずっと大きなドキドキが、わたしのなかを駆けめぐる。


なんだろう、このノート。

見ても、いいかな。いや、ダメかな。プライバシーのシンガイ、かな。

でも、もしかしたら、テストの要点をまとめたものかもしれない。

だったらそれは、ものすごく、ものすごくありがたい。

どうしようかな。うーん、でも。


自分一人で会議をくりひろげた結果的、わたしは思いきって、ノートのはしに手をかけてしまっていた。

ごめんね、と心のなかでつぶやいてから、わたしはノートをひらいた。そして。


「……え?」