お母さんは、ベッドのすぐそばまで来て、わたしの体をさすった。
手はとても、あたたかかった。あたたかいから、ためていたドロドロが、涙となって、全部体から出て行く気がした。
お母さんは、一生懸命、わたしのつぶやきにあいづちを打った。
たくさん考えて、選んだその言葉を、わたしに告げた。
すこし的はずれなものもあったけれど、それは、すごく一生懸命、わたしのために考えられた、言葉だった。
涙はゆっくりと引いていき、乾いたころには、気持ちがとても、落ち着いていた。
お母さんは、最後に、こんな話をした。
「みんなおなじ人間なんだから、話し合えばわかりあえる・・・って言うのは、理想論よね」
わたしの背中を、さすりながら。
「八子と、その子はね。一生わかりあえないかもしれない。その子はそういう子で、考え方は変わらないもの。」
何度も何度も、さすりながら。
「でも、その子に合わせて、八子が変わらなきゃいけない理由もない。だから、いいの」
力強く。それは。
「ほかのみんなが正しいって言っても、正しくないと八子が思うなら、許さなくていい」
わたしの存在を、肯定してくれるかのように。