お母さんにくそばばあと、言わずにすんだかな。
戻ったら、わたしは、嶋田さんを突き飛ばさないのかな。
殴りかかろうとする田岡を、止めることができたのかな。
わたしは。
ひとりぼっちの菜落ミノリに、声をかけたのかな。
していたら。しなかったら。できていたら。
ばかみたい。
そんなこと思っても、現実はなにも変わらないのに。
いっそ、わたしなんか、生まれなかったら。ああ、また、しなかったらを考えている。
ムカムカが、いっそうひどくなる。本当に吐きそうだ。
はやく。はやく。お悩みコーナーが、かかるのを待つ。
お兄サンの声を待つ。再び放送されるわけなんかない、ジュウエンムチの名前に、耳をすませて。
そして、ふと、おかしいことに気づいた。
いくら待っても、流れるのは、曲ばかりなのだ。
曲紹介をするのも、女の人の声。そして、あふれる音は、マイナーなものじゃない。
よく知っている、人気ベストテン入りの曲ばかり。
なんで。
ラジオのチャンネルをたしかめた。
いつもと同じ。いじった覚えなんかない。
なんで。どうして。まさか。