ブランコをこぐ。こぐ。こぐ。
座ったままいけるところまで、振り子となってこぐ。
靴を、思い切りとばしたい気分だった。
願かけ。わたしのことじゃない。田岡が、笑えるように。
とばした先にあるものが、表であってくれますようにと、切に願って。
でも、わたしたちはもう、簡単に靴をとばせない。
その先を、考えてしまうから。
遠くに飛ばしてしまったら、ケンケンで探さなきゃいけない。砂で、靴がよごれる。裏を向いていたら、気分が悪くなる。
そんなマイナスの予想を、いっぱい育てられる頭を、手に入れてしまっているから。
一通りブランコをこぎ終えて、ズリズリと足底で砂をすって、止めたあと。
じゃあ帰るか、と田岡が言った。そうだね、と答えた。
Tシャツが、べっとり汗で、はりついていた。
靴は結局、ふたりとも、とばさないままで。
「~夏休みに、なったらさぁ!!」
田岡が自転車にまたが ったとき、その背中に、声を投げかけていた。
「・・・一緒に、菜落さんの病院に、行く?」
一緒に、なんて。菜落ミノリの友達でもなんでもないくせに、そんな言葉が、とっさに出てきた。
田岡は、しばらくわたしをおどろき顔で見つめたあと、ゆっくりと、首をふった。
「・・・ありがとう、でも、ごめんな」