わたし、聞いていた。すこし離れたところから、なんとなく見ていた。
あのときの笑顔がひどく切ないものだったことに、今さら気づいた。
思い出した。今。
わたし、忘れていたのに。田岡が、部活をやめていたことですら忘れて、朝練に田岡のすがたをさがした。
きっと大事なことだったのに、わたしはなんとなく、聞き流していた。
弱いところを見せたくない。でも、見つけてほしい。
田岡の、笑顔にかくれた、声にならない叫び。
菜落ミノリは、それを見つけた。
見つけていた。気づいていたんだ。
そして、田岡は、菜落ミノリに、気持ちを抱いた。
わたしがずっとずっとあたためてきた謎は、とても、単純なキッカケが生んだもの。
単純だけれど、とても大切なものだった。