田岡。

顔を見た瞬間、ホッとしたのと、ドキリとしたのが、同意に起きた。


久しぶりの、田岡。笑顔が変わらない、田岡。

目が合ってしまう前に、床に目線をうつして、着席した。


・・・なんだ。なーんだ、フツウじゃんか。田岡。


落ち込んでいるとか、黙り込んでいるだとか。そんな田岡を、想像していたけれど。

メールでは、すごく簡潔な文面だったから。

最後に田岡を見たのが、菜落ミノリの、事件の日だったから。

その印象ばかり残ってしまっていたから。だから。


机に息を落として、フデバコを引っ張り出す。

自分が昨晩からずっと緊張していたことを、はじめて知ったような気がした。


「おっ、三橋!!」


男子の一人がわたしに気づいて、大きな声を上げる。

めずらしい、まるで芸能人でも見つけたかのよ うなおどろき方。

わたしがあまり反応しなかったからか、男子はそれ以上、なにも言ってこなかった。


塾に同じクラスの子はいないけれど、きっとウワサは、学年中に広まっているんだろう。

いつもなら話しかけてくる女子たちは、今日はおとなしく縮こまっている。