「・・・八子、朝ご飯、下においてるからね?お母さん、仕事行ってくるから」
ドアの外から、遠慮がちな、お母さんの声が聞こえた。
昨日は、部屋に入ってきて声をかけていたのに、わたしが顔面にむかってクッションを投げたからか、今日はドアも開けようとしない。
状況は悪化している。朝ご飯は、食べたくない。
わたしはもうすっかり、ベッドのうえの住人だ。
学校へ行かなくなって、三日目。
カーテンを閉め切った部屋には、古い空気の匂いが充満している。
わずかな隙間から 入ってくる白い光に、まゆを寄せる。
まるで、敏腕スナイパーみたいだ。犯罪者のわたしを、どこまでも追いかけて、しとめようとする。
もし朝と夜の境目がなくなってしまえば、あれから何日経った、なんて、日にちを数えてしまうことも、なくなるのに。
「・・・まぶしい」
つぶやいた。くちびるはパサついていて、死人のようだと思った。
わたしが、暴動を起こした日。
逃げるように家にもどって、わたしが部屋 にこもっているあいだに、担任から、お母さんの携帯に連絡が入ったらしい。
パートから帰ってきたお母さんは、とんでもなく青ざめた顔をしていた。