歴史の教科書を借りにきたとき。
一度、田岡は、その教科書をみた。
なんて、思ったんだろう。そのときまで、いじめられていると、知らなかった?いつから、好きだった?なんで、菜落ミノリを?
なんで。なんで。どうして。
うるさい、うるさい。わたしの、頭のなか。ウイルスで腐った、教室のなか。なんで、みんな、笑ってるの。
無責任な言葉。いじきたないウソ。やすいプライド。
自分の胃袋を満たすためなら、だれかの血を、根こそぎ吸い付くす。
なんで笑ってんの。笑うな。気持ち悪い。
はやく、はやく、潜らないと。
だれの手も、声も、決して届かない、深海へ。わたしを沈める、低い声。沈めて、沈めて、海の、底へ、底、あれ。
だめだ。
海の底には、空気なんて、ないじゃない。
「田岡さぁー、」
一番うるさいど真ん中に、悪意の声が落ちる。
「もしかして、菜落のこと、ヤっちゃってたんじゃね?アイツを好きにできるのはオレだけ~みたいな?」
「独占欲?ギャハハ、ウケるーっ」
「うっわキッモ!死ねよ」
もう、だめ。息が、できない。