そっと千夏の涙を指で拭う。
「泣くな、千夏。俺はもう平気だ」
「でもっ…」
遥は首にかけていたネックレスをはずし、千夏の首につけた。
「…?」
「親が光にあげた唯一のプレゼント。光は肌身離さずつけていた。これからは千夏に持っていてほしい」
月がモチーフとなっている素敵なネックレス。そんな物を受け取るのは気が引けるが、「もらってほしい」と遥に言われた。
「ありがとうございます…」
涙ながらに笑みを浮かべる千夏。

そんな彼女を抱き締めていた遥は、顔を歪ませながら口を開いた。
「ネックレスは光の形見。そして、今俺達がいるこの倉庫を出てすぐの交差点で、光は死んだ」
「!?」
遥の言葉に千夏は驚く。遥は一度千夏を離すと、彼女の瞳を見据えた。

「さっき話した俺の過去は、俺がお前をさらった本当の目的と関係している。お前にはもう隠したくない、最後まで聞いてくれ」
肩を掴んで必死に訴えかけてきた遥を見つめる。
私を信じてくれてる…。
遥の全てを受け入れると決めた千夏は、意を決して頷いた。

 *   *   *

「まだかかってきませんか?犯人からの電話」
警部が、すっかりやつれた千夏の母親に問う。「ええ…」と力ない声で母は答える。

「警部!」
そこへ、部下の一人が慌てた様子でやってきた。
「これが、旦那さんの部屋に…」
一枚のメモを渡す。
[千夏の居場所がわかりました。今から5000万を持ってそこへ行ってきます 父]