佐藤弥生が女に飛びかかった時、中沢麻紀子は自然に腕時計に目をやった。14時40分だった。

 女は、中沢麻紀子を殺さない、と断言した。

 鈴木良太をいじめていた生徒なんてたくさんいるし、何人が生き残れるか分からない。中沢は『証人』として、正確な時間を覚えておこう、と思ったのだ。いわば、殺さないと断言された以降は『対岸の火事』なのだ。

 だから、佐藤弥生という不良っぽい生徒が飛びかかっても、それに加勢しようなんて気は毛頭なかった。彼女が女を組み敷いてクビを締めた時も、それは同じだった。

 佐藤は女に勝ちそうな勢いだった。周りの生徒もおそるおそる立ち上がり、助けにいこうかというそぶりを見せた。

 運転手の山本も異変を感じたのか、小走りでやってきた。

 大人の男性が加われば、もう安心だろう。中沢もここでようやく腰を上げて、床下の状況を把握しようとした。