自然にタツヤからの距離を弥生はとった。

「ノートには、あなたへの恨みが誰よりも書かれていた。殴ったり蹴ったり、っていうのは日常茶飯事。お金まで巻き上げていたのね。・・・そんなにうちの子が嫌いだった?」
女の言い方は、気味が悪いほどやさしかった。

「・・・別に」
不機嫌に答えるタツヤは、どことなく投げやりにも聞こえた。

「良太はやさしい子だったのよ。それをいじめて楽しかった?あなたのストレスは解消できたんでしょうけど、それであの子がどんなに苦しかったか、少しでも考えたことがあった?」
微笑は浮かべたままだ。

「・・・」

「何も言えないのね。てっきり懺悔の言葉でも聞くことができると思ったのに」

「・・・別に」
タツヤが繰り返した。

 女が静かに銃口をタツヤに向けるのを見て、弥生はシートにうずくまるように隠れた。タツヤの左手が近くにある。それは、細かく震えていた。女に弱みを見せまいと、必死に耐えているかのようだった。