「バスジャックをした目的はなんですか?」

「さぁ、何だと思う?」
よほどクラシックが好きなのか、目を閉じたまま微笑む。

「わかりません。お金ですか?」

「お金?」
驚いたように目を開けてこちらを見ると、おかしそうにクスクス笑い出す。

「違うんですか?バスジャックをするくらいだから、相当な理由なんじゃないですか?」

 バスジャック、という単語を知らずに強調した。携帯が音を拾ってくれているといいのだが・・・。


 女は、再び腕を組むと、佳織に諭すように話し出した。
「人間は残酷ね。こうやって引き金を引くだけで、命を一瞬でこわしてしまうもの。それまでの人生・・・そう、積み重ねてきた思い出なんかもあっという間に消えてしまうの」