黙ったまま佳織は軽くうなずいて見せると、顔を正面へと戻す。

 女が鼻で大きく息をすると、
「さ、これから楽しいドライブをしましょう」
とにっこりと笑った。

 その表情を見つめたまま、佳織は右ポケットに手を忍ばせた。携帯をポケットの中で音のしないように少し開く。

 ボタンの位置を指先で確認すると、少し濡れているような感覚がした。

 汗・・・?

 親指で「1」「1」「0」と押す。おそらく当たっているはずだ。そして、次に通話ボタン、これは左の上の方だったはず。それを押す。

 これでうまくいけば警察につながるはずだ。

 いたずらだと思われないよう、佳織は女に話しかけることにした。この会話を聞いてもらえれば、警察も動き出すだろう。