佳織の勤務する『愛鉄バス』は、愛知でも有名なバス会社である。このあたりではバスツアーといえばすぐに連想するくらいメジャーな存在だ。

 佳織は大学を卒業後、愛鉄バスへ入社した。事務員として採用されたのだが、今年23歳の誕生日にまさかの配置換えがあり、乗務員部へやってきたのだ。

 通常ならば半年から1年以上の研修期間を経て、乗務員、つまりバスガイドとしてひとり立ちできるのだが、なぜか5ヶ月の研修だけでテストをパスしてしまい、今日がいわば『デビューの日』となってしまったのだ。


「今日の修学旅行生って学校はどこなの?」
淳子が尋ねた。淳子は、佳織と同時期に配置換えをしてきた数少ない同年代の同期である。そのため、必然的に仲良くなり、佳織にとっては心の許せる相手だった。

「えっと、たしか札幌の高校だったよ」
記憶をたよりに言う。