山本は一瞬女を見やると、ため息を大きくついた。
「犯人の言う事にしたがうこと。解決は望まず、乗客の安全を重視する」

「その通りよ。じゃあ、指示を出すわ。山本さん、あなたは常に高速道路の左車線を走りなさい。他の車両から引き離されるように、スピードは80キロ以上は出さないこと」

「・・・分かった」

「降りるインターは飛騨清見の予定なのよね?でも、そこでは降りません。そのまま能越自動車道に乗り継ぎ、その後氷見インターで降りなさい」

 山本はうなずくと、またため息をつく。

「じゃあ、あなたのインカムを出しなさい」
女が右手を前に差し出す。

「は?」

「本社や他の車両に連絡を取られないようによ。携帯電話も没収」

「俺のイヤホンマイクは壊れてるんや」
そう言いながら山本は、イヤホンマイクを手渡す。胸ポケットから携帯電話を取り出すと、それを乱暴に女の手に押し付けた。