女は皆が静かになったことに満足したようにうなずくと、
「八木ってのは誰?」
と尋ねた。

 数人の生徒が、八木を見る。
「・・・僕です」
右手を上げて八木が立ち上がる。

 女は、ポケットから折りたたんだ布を八木に投げる。

「それはエコバック。その中に携帯電話を回収しなさい。拒否した物には罰を受けてもらいます。さぁ、やりなさい」
最後の言葉だけ力強く、弾かれたように八木がエコバックを広げて、通路に躍り出た。

「携帯電話をここへ」
八木がエコバックを大きく開けて、1人ずつ提出してもらってゆく。

 呆然とそれを見ていた佳織の耳元に女が顔を寄せる。
「死人は出したくないでしょ?」

 ガクガクと震えながら何度もうなずく。

「そうよね。初添乗だものね。だったら言う事を聞くこと、いいわね?」

 女は佳織が初添乗ということまで知っているようだった。