書類にサインをするときの、自分のフルネームを見るのが植園は苦手だ。


 植園勝子


 長年この名前で生きているが、何度書いてもしっくりこない。大きなため息をつくと、植園は書類を乱暴に吉沢に渡した。

 吉沢は心得ているのか、それをスムーズに受け取ると引き出しにしまった。

「まったく、この事件はどうなっているわけ?」
言っても仕方ないのだが、詰問するような口調を投げかけてしまう。

「生徒たちは北海道に戻りましたし、下川則子の行方も未だ分かっていません」

「それは分かっているわよ!」
煙草に火をつけると植園は煙を吐き出した。

「そうですか」
肩をすくめて吉沢は書類をあやつっている。