静かな上昇の中、潤は混乱していた。映画を見るときなどでも第三者になれれば、いろんな考え方もできるし冷静に判断できるのだが、実際に自分が渦中に巻き込まれると何も考えられない。現実についてゆくのがやっとだ。

「DNAは出なかったのですか?」
よくドラマなどでは髪の毛の1本から犯人が分かったりするらしい。それを思い出して潤は尋ねた。

 植園は苦笑すると、
「犯人たちは手袋をしていたのよね。髪の毛もおそらく以前から集めていたのでしょう、何百人分も落ちていたのです。こうなるとまったく証拠としては採用できないんですよね」
と幾分軽い口調に戻って言った。

「そうですか・・・」

 ドアが開くと、そこは『集中治療室』と書かれたフロアーだった。


「ここに鳥岡先生が?まだ状態が悪いんですか?」
植園の後を歩きながら潤は言った。