愛知総合病院へはタクシーで20分ほどだった。正面入り口で植園たちと待ち合わせをしているのだが、20分過ぎても彼らは現れなかった。

 今日の夕方の便で潤は家に帰ることになっていた。母親には申し訳ないけれど先に帰ってもらった。そうしないと整理がつきそうにないからだ。相変わらずテレビでは事件のことばかり報道していたが、容疑者であった鈴木夫妻が容疑からはずれたこと以外は何も分かっていないようだった。

 今でも不思議に思う。

 取調室に現れたあの老夫婦は、どう見てもあのバスジャックした犯人とは違っていた。

「なぜなんだろう・・・」
自然に口から言葉がこぼれる。彼らは、自らを『鈴木良太の親』であることを告げていた。それなのに、実際の両親は別にいたことになる。

 考えれば考えるほどわけが分からない。

 冷たい風が吹いてきて、潤は身をすぼめた。