「今田さんさ、ちょっと本部に連絡とれるか?」
 山本が佳織が座るのを待っていたかのように尋ねてきた。

「本部、ですか?」

「あぁ、なんていうんや。会社の司令室みたいなとこ。俺らは本部って呼んでるんやけどな」

 そこまで聞いて佳織はようやく理解した。
「オペレーターのことですね?」

 オペレーターとは本社にある部署で、そこから各バスと連携をとっている。渋滞や事故の情報、こちらの進み具合などを報告しているのだ。

 山本は、
「それそれ。なんや、ガイドチームの方がかっこええ言い方やな」
と笑う。

「どうかしましたか?」

「いや、これがさ」
山本が自身に装着しているイヤホンマイクを指差して続ける。
「なんにも聞こえへん。故障してるみたいやわ」

 山本が片手で器用にはずすと、佳織に渡してきた。
 なるほど、耳につけてスイッチを押しても何も聞こえてこなかった。