一呼吸おいて、佳織は話し出した。

「みなさん、おはようございます。本日は『愛鉄バス』をご利用くださいまして誠にありがとうございます」

 ・・・なんだっけ?

 いきなりセリフがとんであせったが、さりげなくカンニングペーパーを覗き込む。

「わたくし、今回皆様のガイドを務めさせていただきます、今田佳織と申します。明日の夕刻までどうぞよろしくお願いいたします」

 深く頭を下げると、パラパラと拍手がおきた。

「みなさま、昨日の市内観光はいかがでしたか?楽しまれましたか?」
そう尋ねる自分の顔が笑っていないことに気づき、佳織はあわてて微笑んだ。

「昨日のバスガイドよりはキレイ!」
後ろの方の席にいる男子が声を上げ、ドッと笑いが起きた。

 昨日は市内観光だから違うバス会社だったはずだ。

「それはありがとうございます」
昨日のよりは、というセリフがひっかかったが、佳織は軽く頭を下げた。