「おい」
八木が麻紀子の膝をつっついた時、その感覚は嘘のように消え、麻紀子はとっさに目をそらした。

 山本が女に何か耳打ちしているのが分かったが、どうすることもできず現実から逃れるように麻紀子は固く目をつむった。

 生徒たちの悲鳴が遠くに聞こえ、それがそのまま遠ざかってゆくことを願ったが現実は変わらず、女の声が聞こえた。
「良太のことを本当に思ってくれているなら、もっと心に届くような後悔の言葉が聞きたかったわ。つまり、あなたたちは反省してないのよ。根っからの非情な人間なのよ」

 目を開く。前を見ないようにうつむいたまま、麻紀子は目だけを閉じられたカーテンに向けた。まだ昼過ぎというのに、どこか夕方のような日差しが差し込んでいた。