辿り着いたところで、ゆっくりと自転車を止め地面に足を着いた。
乱れる呼吸を整えるように大きく息を吸い込む。
「頂上だよ、朗」
振り向いた先、いつの間に手を離していたのか、ようやく追いついた朗が荷台にもたれるようにして手を付いた。
ちゃんと後ろから押せよ、そう怒ろうとして、だけどそんな思いはすぐに消える。
なんか変だ。
頂上に着いたのに何も言わないし、呼吸も随分乱れて荒い。
大きく揺れる肩が、見るからに苦しそうで。
「……ねえ、大丈夫?」
わざとそうしているようには見えなかった。
ただ自転車を押して歩いていただけのはずなのに、なんだか思った以上に疲れているみたいだ。
そんなに長い道のりでも、急な坂でもなかったのに。
「朗……?」
覗き込んでも、朗は何も言わず、そのままの姿勢で何度か深く呼吸をしていた。
だけど、やがて顔を上げると、長い睫毛を微かに揺らしながらそっとわたしを見て。
そして、目を細めて、楽しそうに、笑った。
「暑いな、夏海」