「うう……重い……」
「失礼な! 軽いってば!」
「そうかな……いや、やっぱり重い……」
背後でうめく声がする。
だけどわたしはそれを無視してペダルを踏み続ける。
ゆっくり、でも確実に進む自転車。
そしてまだまだ続く坂道。
「夏海、疲れた」
「早いよ! もっと頑張れ!!」
「もう無理だ。心臓が破裂しそうだ」
「わたしもだっての!」
叫びながらペダルを蹴る。
ハンドルの上に汗が落ちて、それがまたどこかへ伝って垂れていく。
夏の空気を肺いっぱいに吸い込む。
生ぬるい空気だ、酸素がたりない。
アスファルトの上は熱気に満ちて、まるで蜃気楼のようにゆらゆらと揺れている。