今は夏休みらしい。
おかげで廊下は人影がなかったが、どこからか色んな掛け声や、楽器の音が聞こえていた。
辺りが妙に静かなせいか、遠くから届くそれらの音が、やけに耳に響いて聞こえる。
どこかで誰かが叫ぶ声、どこかでだれかが奏でる音。
今、この場所で、たくさんの人間が生きている。
今も、過去も、未来も、たくさんの人間が、ここで生きているんだ。
毎日を、好きなように、思うままに。
楽しいことをして、時々悩んで、たまに本気で泣いて、また笑って。
きっとその日々の全てが、眩しいくらいに、綺麗なんだろう。
俺には到底、わからないほどに。
校舎の上のほうに、音楽をする部屋があるのか。
楽器の音を辿り、何度も休憩をしながら進んでいたら、随分上の階まで来てしまっていた。
そしていつの間にかその音すら通り過ぎていたようで、辿り着いたのは、階段の終わり。
そこには、古い扉がひとつ、あるだけだった。
扉には『立ち入り禁止』と張り紙が貼ってあった。
だが、ためしにドアノブを回してみると、思いのほか簡単にそれは開いた。
扉を開けた先は、夏の風が吹き抜ける屋上。
眩しいほどに青い空が、そこで迎えてくれていた。