蝉の声は、少しずつ数を減らしていた。
吹く風は生温くも清々しい。
もうすぐ一日が終わり、長く短い夜が来る。
「驚いた。父さんがそんなこと訊くなんて思わなかったから。でも俺はすぐに返事をした。行きたい、って」
朗がわたしの背中に語りかける。
わたしはペダルを踏み続ける足は止めず、だけど後ろから聞こえる朗の声に、耳を澄ましていた。
「夏海が、俺を迎えに来てくれなくても、もう一度あの場所から始めたいと思ったんだ。お前と一緒に、最後まで」
ペダルが、僅かに軽くなった気がした。
少し踏みつけると、今度は漕がなくても車輪がからからと回るようになる。
坂道の頂上。
「お前が来てくれてよかった。俺は、夏海がいないとだめなんだ」
そしてここから、最後の下り坂。